昭和54(1979)年9月5日、アメリカ合衆国プリンストンで開催された第3回世界宗教者平和会議における出席していた日本の宗教者による差別発言以来、仏教界における差別体質が厳しく問われ、本宗においても重要課題と受け止め、翌年4月に社会局に公益教化事業団体の一つとして同和推進協議会を設立し、人権問題、特に同和問題に関する取り組みを開始いたしました。
当時は教団全体が人権意識に目覚めるよう始動しかけた時期で、まだ人権啓発を展開する段階には至っておらず本宗教師の多くが被差別部落や解放運動に対して予断と偏見をもっていました。
このような状況下で昭和55(1980)年7月に、本宗寺院住職による差別発言事件が発生し、この事件は、発言者個人や教区だけの問題ではなく、浄土宗全体の体質改善をめざし、組織の見直しから教育や啓発面の充実、差別戒名改正、教区内教師の学習へと段階的に進めていくきっかけになり、教団として同和問題の更なる重要性を認めていく大きな転換期となりました。
それは、同和問題を中心とした取り組みの充実であり、従来の同和推進協議会は単なる任意団体に過ぎず、組織的にも不充分なものであったため、昭和58(1983)年3月第37次浄土宗定期宗議会において、「浄土宗同和推進事務局規程」及び「浄土宗同和推進審議会規程」が全会一致で可決され、本宗においても、同対審答申にあります「同和問題は国民的課題」を本宗の重要課題として位置付け、本格的に取り組みを開始し、現在は人権センターで取り組みを行なっています。
平成8(1996)年に第1回追善法要を総本山知恩院にて厳修し、翌年以降毎年順次大本山を巡り、その後、八つの地方にて勤めました。内容は講演・法要・意見交換等、地元関係者と交流を深めながら底辺の拡大を図り、特に導師をお勤めいただいた各総大本山の門法主は法要中の表白において、「差別戒名を容認し付与せしは、釈尊・宗祖の御心に背き大いなる過ちを犯す。ここにおいて、われら至誠の志を合わせ、宗門及び関係者一体となりて、大いに懺悔滅罪し奉らんとす」と申され、法要の都度、深い懺悔と反省の誠を捧げられ、心からの回向がなされました。また、宗門を代表して宗務総長は追悼の言葉において「一人ひとりが部落差別をはじめあらゆる差別を許さないという意識を昂揚せねば解決しえないものであり、誰もが根底にある差別意識を克服していくことが第一歩なのであります。(中略)今後、啓発活動をより一層充実させながら意識変革を図るべく努力することを表明します」と決意を述べられました。
この法要は、宗祖の「万人平等救済」の教えに反し、差別に加担してきた歴史的事実を認識し懺悔・反省する法要であり、死後にまで差別され続けてきた物故者に対しての謝罪と回願であります。
本宗としては、この法要を出発点として、部落差別を容認してきた宗門の大きな過ちを反省するとともに、法然上人立教開宗の原点に立ち返り、単なる法要儀式で終わらせずに、あらゆる差別撤廃に真摯に取り組んでいく本宗の決意表明でもあります。差別戒名墓石改正をはじめ山積する課題に対する取り組みが、真の意味での懺悔につながるものと確信し、行っております。
平成8年から平成26年度まで、19回に亘り総大本山、地方教化センターの協力を得て厳修してきましたが、現状は、差別戒名墓石の関係者である寺院住職、継承者の出席が減少し、出席者の多くは役職者として出席している方が多く、その要因として、「法要を厳粛に執行することに重点を置くあまり、法要の意義を浸透させることが疎かになったこと、すべての教師、寺族が出席できる開催方法を再考すべきである」との人権同和審議会答申を受けて、平成27年度からは、各地方で開催される教化高等講習会に併せて厳修し、人権研修会も開催いただくこととなり、教区においても厳修いただけるようにしております。
過去帳の開示は、身元調査につながり、時には重大な人権侵害になります。
身元調査とは、本人のプライバシーを著しく侵害し、本人の尊厳を無視した差別意識や偏見につながります。その結果、就職差別や結婚差別を生むことになり、場合によっては尊い命が失われるといった悲劇が起こり得ます。
したがいまして、身元調査はなぜ許されないかを正しく知り、過去帳の開示はいかなる事由があろうともきっぱり断る行動を起こしていくことが大切です。
もし、依頼があった際には、人権センターにご相談ください。
1.税務調査
→税務署からの要請であっても開示は禁止です。守秘義務があり、閲覧させると秘密漏洩罪の対象になります。
2.檀信徒ご本人からの依頼
→故人のご親族であっても、過去帳には他人の情報も記載されている等のことから閲覧させることは禁止です。
3.歴史上の人物調査
→歴史上、学術的な事由であろうとも過去帳を閲覧させることは禁止です。依頼を受けたときは先ずは人権センターにご相談下さい。
人権センターでは、浄土宗教学部の協力のもと浄土宗研修会館で行われている実践講座のうち、ともいき編として年1回の人権に関する講座を実施しています。
普段は、学ぶことが少ない人権について、「楽しく人権を学ぶ」をテーマに、さまざまある人権問題を、一人ひとりが身近に捉えられる講座を目指し、実施しています。
昭和54年(1979)第3回世界宗教者平和会議における差別発言をきっかけとして、宗教界に対する強い糾弾が行われました。これが引き金となり、2年後の昭和56年6月29日に同和問題にとりくむ宗教団体連帯会議(同宗連)が結成され、令和3年4月現在の加盟教団は65教団と3つの協賛団体で組織されています。浄土宗も結成当初より参加し差別解消にとりくんでいます。
『われわれは、社会に、宗教者を名告る者である。宗教者は、教えの心をこころとして生きる者である。しかるに、その心にそわぬ、あやまちのいかに多かったことか。しかし、このあやまちは、深き反省において、たま、教えにつながりうる。神の国、仏の国を願うことは観念ではない。社会の事実を見すえ、積極的にかかわる生きざまこそ、その証がある。今やわれわれは、あたえられた平等の慈愛にたって、世界の人権、そして日本の部落差別の事実を、自己自身にかかる問題として受け止め、自主的に歩み出すことを確認する。ここに、あらためて、深き反省のうえに、教えの根源にたちかえり、「同和問題」解決へのとりくみなくしては、もはや、日本における宗教者たりえないことを自覚し、ひろく、宗教者および宗教団体に、実践と連帯をよびかけるものである。』(1981年2月16日)
天のこえ、地のこえを別のものとして、われわれ宗教者は、神の栄光を讃え、ほとけの徳を語り、まことの道は天に通ずとのみつたえきたった。すでに60年前、水平社宣言における「人の世の冷たさが、何んなに冷たいか、人間を勦(いたわ)る事が何んであるかをよく知っている吾々は、心から人生の熱と光を願求礼讃するものである。 水平社は、かくして生れた。人の世に熱あれ、人間に光あれ。」という大地の叫びをどううけとめてきたか。いま、われら、ここにあらためて、大地に立たち、一切の差別を許さない厳しい姿勢を律しつつ、相携えて、あらたな宗教者たらんことを宣言する。
1981年3月17日
「同和問題にとりくむ全国宗教者結集集会」